Photo:谷岡康則 Yasunori Tanioka
「残像の庭」和田みつひと
展覧会の会場となるMA2 Gallery は、恵比寿の高台にあり、自然光が差し込む大きなガラス窓が印象的な場所である。初めて、ギャラリーを訪れた際、大きな窓と白い壁に囲まれた空間が、都市の喧噪の中にありながら、静かな時間が流れる日常とは全く別の空間、まるで日本の庭の様に感じた。日本の庭は、生活に密着した身近な自然空間であり、都市の狭間に合って人々と自然(環境)との交歓の場としてあります。場所の特性を生かし、光と色のインスタレーションによって、「残像の庭」と題した展覧会を開催した。
黄色い光に包まれた空間をつくりだした1階では、1820mm四方のカメラオブスキュラ(ピンフォールカメラ)に設えた箱を茶室に見立て設置した。アルミ板で仕上げられた箱の表面は、周囲の光景を黄色に染めて映しだした。箱の中に入り、次第に暗さに目が慣れてくると、箱に開けた小さな穴(ピンフォール)から差し込む光によって、窓の外に見える都市の光景が上下逆転し映しだされていることに気づく。
ピンク色に満ちた空間をつくりだした2階では、補色残像効果という人の眼の生理現象によって、ピンク色に慣れてると補色のグリーンの色が強く見えてきた。ピンク色の光が届かない白い壁もグリーンに見えてくるのである。さらに、部屋の暗部には、室内の様子をビデオカメラでとらえ、ネガフィルムのように補色のグリーンに反転させ、液晶プロジェクタで映し出した。ピンク色を見続けた後、グリーンに反転して投影された映像を見ると、より鮮やかなグリーンに見えたのである。
日没と共に、今回の展示のもうひとつの姿が見えてきた。黄色とピンク色の光が夜の闇に浮かんだのである。日没後は、青い光が、あたかも無信号のブルーバックのように夜空に浮かんだ。日没後、建物全体を使い、夜の都市へと光と色が介入した。
「残像の庭」と題したこの作品は、昼と夜、建物の内と外、作品となる場所と作品を見る人との関係の中に紡ぎだされる。普段、あまり意識をすることのない日常の風景や慌ただしい生活の中で見過ごしている自分自身と向き合い、生活の中にある「美」を問う契機をつくり出した。いわば、日本の庭と通じる、日常生活の狭間に垣間見る非日常性に立脚した美意識の喚起を試みた。
■コラボレーション・イベント
会期:9月19日(月)、20日(火)
出演:Junko Okuda(dance)