「日本画から出発したインスタレーション」 和田みつひと

□日本画からの出発

 美術大学在学中は、日本画を専攻し、膠を溶剤に岩絵具や箔など日本画に使われる画材の使い方を学びました。制作に当たり最初に考えたことは、何を描くかということです。常にカメラを持ち歩き、生活の中で気に留まった物や場所を撮影し画題を膨らませました。

 画題を探すと同時に考えたことは、日本画とは何かということです。そして特に日本画を考える上で近代以前の日本画、日本画と呼ばれる以前の日本の絵画、障壁画に深く関心を持ちました。西洋の一視点の遠近法で描かれた絵画とは違い、東洋の遠近法には「画面の中に複数の視点がある」こと。そして、「空間を仮設的に仕切る」と同時に、それ自体が空間を孕み「場所や建築と強く関わる」ものだということです。いうなれば立体作品としての屏風や衝立、建築に強く関わる襖絵に興味を抱いていたのです。

□絵画自体の構造へ

 次第に、画面の中に何を描くかということよりも、絵画自体が持つ構造に興味を持つようになりました。絵画とは何かを問い、再現的なイメージや、感情や意味を描かない絵画や立体作品に興味を抱くようになったのです。作品は、日本画の絵具を使うことから、ボルトやアルミ板といった工業的な素材を使い、さらにアルミ板を折り曲げることで平面は立体へと変わりました。

□作品と人との関係へ

 作品が立体化したことにより、作品が置かれる環境へと興味は移っていきました。作品の主題は人と関わることに移行したのです。アクリル板を立体に組み立てたものをいくつか配置し、その間を鑑賞者が行き来する作品を経た後、展示空間そのものを操作する作品へと移行しました。このことは、日本画を考えるにあたり「複数の視点がある」という画面の解釈を空間へ拡大し、日本画を足場にしながら「空間を仮設的に仕切る」、「場所や建築と関わる」作品へと移行した結果なのです。

□見るという経験

 1997年より、画廊や美術館だけではなく、ロビーや喫茶店といった日常的な場所で、それらの建築物がすでにもつ構造や機能を前提にしながら、その建築物のガラス面にPVCフィルムを貼ることや、床や壁面に塗料を塗るという最小限の操作を加えることによって、場所と強く関わる作品を発表しています。

 水墨画にせよ日本画にせよ東洋の絵画の遠近法は、画面の外から見るのではなく、画面と一体となることに重点が置かれ、鑑賞者のあらゆる記憶や感覚を呼び起こし全身体的かつ全感覚的な経験として絵画を経験させようとするといいます。私の作品も同様に、展覧会に接する人の経験と、その経験に伴って起こる意識の変化が重要となります。私の作品の主題は、生活の中にありながらも見過ごしている「美しさ」を自身の中に問う機会をつくり出すことです。日本画を考察するところから出発した私の制作活動は、「見る」という経験そのものを作品にする試みに他ならないのです。